あらすじ
の葬儀の日、二十数歳の青年・坂口は、深い喪失感と「何もできなかった」という虚無感の中にいた。病院で、通夜で、そして告別式で。母の死を事務的に処理していく父の傍らで、彼はただ泥人形のように立ち尽くすことしかできなかった。
だが、納骨を終えた瞬間、世界は一変する。現世の管理官を名乗る無機質な女性が現れ、システムエラーによって坂口の魂が「死んだこと」に処理されたと告げる。母は既に別の世界へ転生し、行き場を失った坂口は、デバッグ中だという未完成の異世界へ「不法投棄」されてしまう。
目を開けた先は、二つの紫の月が浮かぶ未知の荒野。そして彼の足元には、無残に切り裂かれた一人の男の死体が転がっていた。
異世界の理(システム)に戸惑い、生々しい死への恐怖に震える坂口。その瞬間、彼の「空白の魂」に、現世の葬儀の記憶と連動した異質なスキルが強制インストールされる。
――固有スキル『葬列の花束(フューネラル・フローリスト)』。
それは、死体を「その人の人生を象徴する花」へと変換し、その生前の経験(スキル)を抽出・上書きする能力だった。
坂口が死体に触れると、凄惨な亡骸は瑞々しい花束へと変わり、彼の中に「名もなき行商人の歩法」や「石を投げる執念」といった、微々たる、けれど切実な人生の重みが流れ込んでくる。
この世界では10歳になれば神から強力なスキルを授かるが、坂口はそれを持たない「未登録者(バグ)」。しかし、彼は死者を弔うたびに、世界が切り捨てた「ゴミスキル」を数千、数万とスタックさせ、誰にも真似できない独自の「人生の積層」を築き上げていく。
教会が管理する「正規の埋葬」から漏れた、見放された者たち。
坂口は、彼らの亡骸を花に変え、その場に供え、その力だけを預かって歩き続ける。腕の中に抱えた「おおきな花束」の重みは、彼が救えなかった母への後悔と、これから救い上げる名もなき死者たちの生きた証。
これは、立ち尽くすことしかできなかった青年が、世界で最も不細工で、最も強靭な「人生の花束」を編み上げながら、死者と共に歩む再生の物語である。