あらすじ
王都の外れにある「レクター葬儀社」は、勇者専門の葬儀を請け負う小さな葬儀社だった。若き葬儀師ノア・レクターは、父の急死により葬儀社を継ぎ、初めて一人で勇者の葬儀を担当する。
棺に眠っていたのは、魔王の炎を胸に受けて戦死したとされる青年勇者カイル。王国は彼を、仲間を守って壮絶に散った英雄として盛大に弔おうとしていた。だが、ノアは遺体を清める途中で違和感を覚える。胸の火傷は死後につけられた偽装であり、本当の致命傷は、背中から心臓へ届いた人間の短剣だった。
勇者は魔王に殺されたのではない。人間に、背中から殺されていた。
ノアは、聖女見習いエリシア、棺桶職人グリム、死体防腐師ミレイとともに、勇者たちの死因に隠された嘘を追い始める。葬儀を重ねるたび、英雄の美談は崩れていく。呪いで死んだはずの聖女候補は、治癒魔法の使いすぎで命を削られていた。裏切り者として葬られた魔法使いは、仲間を守るために罪をかぶっていた。死んだことにされた勇者は、戦うことに耐えられず逃げて生きていた。記録から消された勇者候補たちは、王国の選抜制度の犠牲になっていた。
やがてノアは、王国英雄管理局が勇者たちの死を都合よく書き換え、国民に美しい英雄譚として与えていたことを知る。勇者制度は、世界を守るためだけの仕組みではなかった。王国の戦争を正当化し、人々の不満を外敵へ向け、死者を物語として消費するための装置でもあった。
さらに、ノアの父が最後に担当した葬儀記録も消されていた。父は、初代勇者の遺言から勇者制度の真実にたどり着き、そのために殺されたのだった。エリシアもまた、行方不明だった兄が魔王に殺されたのではなく、王国の命令に背いたため処分されていたことを知る。
最後の勇者アレスの国葬の日、ノアは王国が用意した偽りの弔辞を破り捨て、これまで葬ってきた死者たちの本当の名前と死因を民衆の前で告げる。彼らは英雄という飾りではなく、恐れ、迷い、傷つき、それでも何かを守ろうとした一人の人間だった。
英雄管理局は崩壊し、勇者制度は見直される。ノアは英雄にはならず、葬儀師として生き続ける。レクター葬儀社の看板は「勇者専門葬儀社」から「すべての死者のための葬儀社」へと変わる。
そしてノアは今日も、棺の前で静かに一礼する。
「お帰りなさいませ」