あらすじ
私には前世の記憶がある。
数百年前に滅びた小国で、私はただの遠征兵団の外様者だった。歴史書にも一文字も残らない、名前もない命。最期は戦場で聖騎士と並んで、瘴気の森の崖を踏み越えた。冬の言葉を、最後まで紡げないまま。
今世では伯爵令嬢として生まれた。なのに継母に折檻され、床を磨き、お茶を注ぐ毎日だ。婚約者が姉に寝取られた時も、驚きより先に「まあ、そういうこともある」と思った。
どうせ記録にも残らない命だ。前世も今世も、似たようなものだと思っていた。
嫁ぎ先がなくなった私は、辺境伯の屋敷に奉公に出された。
そこで、青い目の男と目が合った。
心臓が、ひどく静かに、一度だけ大きく跳ねた。