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重力調整バイトは禁止されている。 それでも、宇宙工学を学ぶ学生たちのもとには、ときどき妙に条件のいい「夜間作業」の話が回ってくる。 観光用リングステーションで人工重力を微調整する──やることは数字を少し動かすだけ。 危険なはずの仕事は拍子抜けするほど地味で、冗談を言う余裕さえあった。 重力が0.98Gだろうと1.02Gだろうと、ほとんどの人は気づかない。そう、思っていた。 ところが作業が進むにつれ、床に落ちる物の動きや、歩く感覚が微妙におかしくなっていく。 数値では誤差としか言えない揺らぎが、少しずつ身体に触れ始める。 やがて、想定されていなかった事態が起こる。 けれどそれは、大事にはならない。少なくとも、表向きは。 朝になれば重力は元に戻り、観光客は何事もなかったように走り回る。 仕事は終わり、報告書は提出され、世界はいつもどおり続いていく。 ただ、重さの感覚だけが、どこか前と違っていた。
家賃と学費に追われる大学生・三枝が見つけたのは、「未経験歓迎・高時給」の宇宙アルバイトだった。 説明会で知り合ったのは、やたら前向きな古賀、理屈で世界を見る工学部生・水野、そして寡黙なパイロット。 訓練は最低限、判断はすべて管制任せ──そう聞かされ、彼らは老朽化した宇宙ステーションへ向かう。 宇宙での仕事は、拍子抜けするほど地味だ。 点検、補修、雑談、そして同じ未来の話。 退屈だけど、どこか居心地がいい。 ところがある日、「考えなくていいはずだった判断」が、彼らの前に落ちてくる。 正解を選んだはずなのに、後味が悪い。 間違っていないのに、胸が重い。 これは、宇宙という非日常で起きた、 とても現実的な「判断のバイト」の物語である。