あらすじ
結婚三年目の夫婦、久夫と美代は、穏やかな日常を送っていた。医療事務として働く美代は人当たりがよく、周囲からも信頼されているが、ある日、火災で見知らぬ人が亡くなったというニュースをきっかけに、激しい悲しみに襲われる。以後、美代は他人の死に過剰に反応し、涙が止まらなくなるようになる。ニュースや小説に触れることすら避けるようになり、久夫は妻の変化に戸惑いながらも寄り添おうとする。
やがて美代は、自分がおかしくなってしまうのではないかという不安を抱え、久夫と共にメンタルクリニックを訪れる。医師・榊原の診察により、美代の症状が過去の記憶と関係している可能性が示され、退行催眠を受けることになる。催眠の中で、美代は幼い頃、深く愛してくれた祖母との日々を思い出していく。
しかし、その記憶の奥には、長年封じ込めてきた後悔があった。祖母が亡くなる前日、美代は遊びの誘いを拒み、冷たい言葉を投げてしまっていたのだ。その出来事を「自分のせいで祖母は死んだ」と無意識に背負い続けてきたことが、他人の死への過剰な共感となって表れていた。
医師の言葉と久夫の支えによって、美代は少しずつその思い込みと向き合い始める。完全な回復には至らないものの、夫婦は「一人で抱え込まない」ことを選び、共に歩み直す決意をする。声にならなかった後悔と別れを抱えながら、それでも前に進もうとする二人の姿が、静かに描かれる。