あらすじ
売れない小説家の「私」は、駅前の喫煙所で“言葉の回収屋”を名乗る男に出会う。男は、人が削除したり捨てたりした言葉は街の隙間に落ち、放置すれば他人の口に入り「自分の言葉」として定着してしまうのだと言う。男が差し出した紙片には、確かに私が消したはずの一文が残っていた。
締切前夜、私は自作の文章が薄く感じられ、消した一行だけが異様に生々しく光って見える。翌朝、回収屋に「自分の言葉を全部返してくれ」と迫ると、鞄の中には私の筆跡の紙片が大量に詰まっていた。しかしその多くは、書いた覚えのない文ばかりだった。回収屋は「あなたがそれを“自分のものではない”と判断したから忘れたのだ」と告げ、さらに「あなたの言葉は、あなたが痛いと感じるところに生まれる」と示す。
私は上手い下手の採点をやめ、“痛い言葉”だけを選び直す。傷の順番を並べ替えるようにして物語を組み立て、ついに『回収』という短編を書き上げる。それは「読まれないと困る」と言われるほどの切実さを帯びるが、同時に私に、言葉を拾い直し続ける覚悟を突きつける――自分の痛みと引き換えに、自分の言葉を取り戻す物語。