あらすじ
王都から遠い地方伯爵家に生まれた令嬢は、社交界では「考えが浅そう」「流されている」と評されていた。
縁談の相手は、侯爵家三男の無口で実直な騎士。やがて騎士団長となった彼は、周囲から理想的な“スパダリ”だと噂されるようになる。
だが二人は、愛を語らず、理想を掲げず、ただ決めた順番と距離で日々を続けていただけだった。
朝と夜、風呂も食事も常に揃い、生活の基準は年を重ねても揺らがない。
子どもたちは成長し、王国と隣国の各地・各分野へ静かに散っていく。
騎士、官僚、料理人、魔術師、聖女、商人、そして王太子妃や王配として、それぞれの場所に根を張りながら、一族として固まることはない。
外野は戸惑い、畏れ、やがて気づく。
――勘違いしていたのは、令嬢ではなく自分たちだったのだと。
これは、特別にならなかった夫婦が、最後まで日課のまま生き抜いた記録。
壊れない日々を積み重ねただけの、静かな人生の物語である。