あらすじ
「千軒長屋」と呼ばれる古き良き宿場町、長野県・奈良井宿。伝統的な木造建築が並ぶその町では、まるで時が止まっているかのように錯覚する。しかし、老いた木のおもちゃ職人・江戸(エド)にとって、時間はあまりにも残酷な敵だった。
最新のガジェットが溢れる現代。江戸は一人、ひのきの香りに包まれながら木を削り続ける。彼が生み出す最高傑作は、決して売り物ではない。観光客がいくら値を付けても、彼は穏やかにこう答えるのだ。「これは、孫のものだから」と。
店の隅にある小さな椅子。彼は毎日その椅子を磨き、いつか孫が遊びに来て、そこに座る日を待ち続けている。
だが、安らぐ木の香りの裏側には、悲痛な現実が隠されていた。膨らみ続ける借金、病に蝕まれていく身体。そして、東京で暮らす家族は、とうの昔に彼の名前を記憶の隅から消し去っていた。
これは、あまりにも虚しい献身の物語。
あまりに速く進む世界の中で、「時代遅れのガラクタ」と切り捨てられた祖父の愛。
あなたは問いかけるだろう。――相手が自分の名も知らぬ時、その約束に価値はあるのか。
「おじいちゃんは待っているよ……最後の雪が、僕の足跡を消してしまうまで」