あらすじ
D.C.2000年。房総半島沖の空に、巨大飛翔体が現れた。
都市を焼かず、海を割らず、言葉も投げかけない。ただ白く進む。だがその周囲で、通信、レーダー、誘導兵器、航空機が次々と沈黙していった。
電子が死ぬ戦場で、人類は文明の脆さを知る。
世界合同迎撃作戦「ユニオンランス」は失敗した。ミサイルは目を失い、戦闘機は翼を奪われ、核すら起爆しなかった。
絶望の中、防衛庁地下の極秘計画「華計画」が動き出す。電子が死ぬ場所で動く、アナログ二足歩行重機群だ。
陸を踏みしめる「連華」。空で人間の脳を翼に変える「月華」。宇宙から落ちる、脚のない黒い機体「烈火」。
連華班の加藤、奥山、伊藤は、鉄と油圧と歯車の機体で干渉圏へ歩き出す。暴走と喪失を背負う加藤。恐怖を正直に口にする奥山。空で失ったものを抱える伊藤。
撃破できない。触れることすらできない。それでも動き、記録を持ち帰り、生きて戻る。
怖いから帰ろうとする。帰り方を先に決めておく。戻る足を作る。帰る場所を照らす灯台を灯す。——四つの言葉が、彼らを地上へつなぐ。
だが小さな希望は、世界の疑心を呼ぶ。なぜ日本だけが動ける機体を持っていたのか。華計画の技術は誰のものなのか。国家は揺らぎ、同盟は崩れ、恐怖は暴力となって人類自身を壊していく。
やがて華計画は禁忌の月華、帰還を前提としない烈火までを投入する。月華に乗る雨宮澪は「灯台」という記憶で自分を空へつなぎ、二足歩行重機の生みの親・荻野博士は戻る足を作った手で最終手順へ向かう。
飛翔体は一度退けられ、しかし戻ってくる。より速く。まるで攻撃しているのではなく、どこかへ帰ろうとしているかのように。
撃退する方法はある。だがそれは、誰かの帰還不能を前提にした選択だった。
三つの華が咲くとき、人類は白い沈黙の向こうに、本当の戦後を見る。
そして宇宙の暗がりから、黒い信号が届く。