あらすじ
論文締切に追われる大学院生・沙希は、冷蔵庫のオレンジジュースが毎朝わずかに減っていることに気づく。封は無傷で侵入の形跡もない。半ば冗談で呼びかけると、姿なき男の声が返り、自らを死後も研究に縋りつく“探求者”だと名乗った。ビタミンC目当ての同居は奇妙な親密さを生むが、ある朝、ボトルの中身は血のように朱へ濁り、影は沈黙する。数日後、遠い声で「見られていない時にどこまでできるか試したい」と告げ、沙希の恐怖は確信へ変わる。赤外線監視で“誰もいない部屋”がジュースを減らし、PCを点け、最後のフレームには赤い人影の輪郭が滲む。直後、影は痕跡ごと消え、残された紙片だけが告げる――透明になって見失ったのは他人の目ではなく自分自身だと。沙希は翌朝、未開封の一本を冷蔵庫に置き、いつか“人”として戻る彼を待つ。