あらすじ
朝になると、僕は彼女の名前を十秒だけ思い出す。
けれど町は、その少女が生きていたことさえ忘れていた。
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旧校舎崩落事故から八か月。久瀬蓮は、毎朝目覚めた直後の十秒だけ、ひとりの少女の名前を思い出す。
ユナ。
けれど、その名前はすぐに薄れ、学校の名簿にも、追悼碑にも、災害犠牲者の記録にも残っていない。町が悼んでいるのは七人だけ。だが、蓮のノートには消えかけた名前が残り、写真には不自然な空白があり、旧校舎の資料室には「三人目」の痕跡が眠っていた。
同じ違和感を抱える朝倉花鈴とともに、蓮は消えた少女・楢原由奈の記録を追い始める。ボイスレコーダーに残された声、町史から消えた墓、地下通路の壁に刻まれた言葉、そして青と白のミサンガ。
由奈はなぜ公式記録から消されたのか。
町は何を隠したのか。
そして蓮は、あの日、彼女の手を本当に離したのか。
これは、忘れることで前に進もうとした町で、消された名前を取り戻すための物語。
――
登場人物紹介
久瀬蓮
毎朝十秒だけ少女の名前を思い出す少年。旧校舎崩落事故の生存者で、失われた記憶と向き合う。
朝倉花鈴
冷静で記録に厳しい少女。蓮とともに消えた少女の痕跡を追い、自分自身の忘却とも向き合う。
楢原由奈
町の記録から消された少女。地域記録整理係として、町史から消えた名前を調べていた。
森下
蓮の友人。何気ない写真や夢を通じて、由奈の記憶を少しずつ思い出していく。
榊先生
かつて地域記録整理係を担当していた教師。由奈の訴えを知りながら、町を恐れて沈黙した。
安西先生
災害後に赴任した教師。由奈の記録を知った後、学校側の大人として再調査に動く。
高倉誠
旧校舎崩落時の救助に関わった人物。地下通路で見た由奈の痕跡を証言する。
三枝浩一
町役場の職員。復興の名のもとに、都合の悪い記録を「整理」しようとする。