あらすじ
19世紀半ばのもう一つの日本。そこは、既に産業革命を経て近代に目覚めていた。先行する持てる者と、遅れてきた持たざる者。
持てる者と持たざる者が戦った時、必ずしも持てる者が勝つとは限らない。ただし、持たざる者が勝つわけではない。持てる者が、全財産を持って逃げ出したとしたら、持たざる者は追いかける事が出来るだろうか?
これは、持てる者の正義と、持たざる者の情念が衝突した、もう一つの幕末の物語。そして、南半球にひとつの共和国が誕生するまでのクロニクル。
【あらすじ】
一九世紀中葉。欧州が「諸国民の春」に揺れていた頃、極東の島国・日本でも静かなる地殻変動が起きていた。後に「嘉永産業革命」と呼ばれる技術的爆発である。
南洋の開発と列強との交易で、莫大な富を蓄積した幕府政権は、西洋技術をさらに貪欲に吸収。東日本を「技術と経済の楽園」へと変貌させていた。ここでは武士は刀を捨て、計算尺と図面を武器にする「技術官僚(テクノクラート)」となり、蒸気機関が黒煙を上げて工場を稼働させていた。
しかし、その繁栄の陰で、取り残された者たちがいた。重工業産業化の波に乗れず、東国の経済的植民地と化した西国諸藩である。
彼らにとって、幕府が推し進め、独り占めしようとしている「近代化」や「国際化」とは、自分たちの懐が潤わない限り、美しい日本の田園と精神を金(カネ)で汚す「夷狄(いてき)の毒」と断ずるほかなかった。
高杉晋作ら西国の志士たちが掲げた「攘夷」の旗印は、外国人排斥ではない。それは、強大すぎる幕府資本主義とグローバリズムに対する、持たざる者たちの絶望的な生存闘争(テロル)であった。
合理と計算で国家を運営しようとする徳川慶喜・松平容保ら「南山派」
国体を守るという看板の元。情念と破壊によって国権を握ろうとする西郷隆盛・岩倉具視ら「維新派」。
異なる正義、異なる未来図を持つ二つの勢力が激突するとき、列島はかつてない内戦の炎に包まれる。そして東国勢力が選んだ手段。それは人も物も金も、一切合切持ち出して、国家そのものを南洋へ移転させる、近代史上前代未聞の「産業大移動(国家の夜逃げ)」であった。
蒸気機関とサムライ。鉄と牛肉。ルソーとカステラ。 複数からの視点で描かれる、血の通った群像劇……になるといいな。