あらすじ
雪深い山の奥。
エレンとミカサは、戦いを逃れたふたりきりで暮らしていた。
薪を割り、紅茶を淹れ、静かな時間を積み重ねる。
外界から隔絶された小屋の中で、二人はようやく“幸福”を手にしたように見えた。
けれど、奇妙なことがある。
ミカサが目を覚ますたび、同じ朝が繰り返されている。
同じ雪、同じ湯気、同じ言葉。
「おはよう、ミカサ」「おはよう、エレン」
その声のやりとりだけが、壊れた時計のように続いていく。
やがてミカサは気づく。
この山小屋は、**エレンが死の間際に思い描いた“記憶の牢獄”**だと。
彼の意識は、死の直前に「幸せな最後」を願ったまま凍りつき、
その中に“ミカサの像”を閉じ込めてしまった。
つまり、ここにいるミカサは現実の彼女ではない。
エレンの記憶が作った、彼女の“残響”だ。
それでも彼女は毎朝、同じように言う。
「おはよう、エレン」
それが、彼を救う唯一の祈りだから。
時間の輪が少しずつ歪みはじめる。
エレンは、何度目かの朝に、ふと涙を流す。
「……この日々は、夢なんだな」
ミカサは笑って頷く。
「うん。でも、もう少しだけ見ていたい夢だね」
外では雪が止み、光が差し込む。
エレンが目を閉じると、ミカサの姿がゆっくりと消えていく。
その手には、彼が遺したマフラー。
――春の風が吹いた。
ミカサは目を開け、冷たい墓石の前で微笑んでいた。
雪の小屋も、夢の記憶も、すべてはエレンの終わりを包む幻想だった。
だがミカサはまだ、彼の“夢の続き”を信じて生きている。