あらすじ
この町には、名前を売れる店がある。
名前を売れば、金も自由も忘却も手に入る。
けれど代償として、その者は少しずつ世界から“呼ばれなくなる”。
遺書代筆人・紙屋敷弔一のもとには、名前を売って死ねなくなった少年、神名を失った元水神、恋人に呼ばれていた名だけを探す青年が訪れる。
弔一は彼らの最後の言葉を代筆し、失われた名前の痕跡を追っていく。
だがやがて、名前を売る店の帳簿に、弔一自身の名が記されていることが判明する。
他人の終わりを書いてきた男は、自分の名が消える前に、書けなかった一通の遺書と向き合うことになる。
これは、名前を失った者たちが、もう一度「ここにいた」と言うための物語。
登場人物
紙屋敷弔一
言葉を失った者や死ねない者のために遺書を書く、寡黙な遺書代筆人。
ミズハ
弔一のそばにいる元水神の女。かつて自分の神名を「名前を売る店」に売った過去を持つ。
名前を売る店の店主
名前に傷ついた者から名を買い取り、商品として保管する、性別も年齢も曖昧な店主。
あまね
母の治療費のために名前を売り、誰からも呼ばれなくなった少年。
名前のない青年
本名も過去も失い、恋人に呼ばれていた“呼び方”だけを探して弔一を訪れる青年。
瀬尾小春
名前のない青年が命をかけて救おうとした少女。彼にとって唯一の居場所となる呼び方を残す。
榊原佳代
旧家に眠っていた水神の掛け軸を見つけ、家が水に侵される怪異に巻き込まれる女性。
過去の少女
弔一がかつて遺書を書けなかった少女。彼が遺書代筆人となる原因を作った存在。