あらすじ
西暦6727年。温暖化と戦争と再建の時代を越えた未来のエジプトでは、ギザの三大ピラミッドは“死者の記憶を保存する地層”として再解釈されていた。
追悼考古士サラ・ナディームは、遺跡に残る微弱な残響記憶を読み解き、遺された者へ届ける仕事をしている。だが彼女自身は、幼い弟ライルを失った砂嵐事故の記憶だけを欠いたまま、七年を生き延びていた。
ある日、ひとりの少年がサラのもとへ違法依頼を持ち込む。
「今日の夕陽までに、王の間の記録を開いてほしい」
それは、国家が封印した記憶層。
そこにはサラの父の名があり、そして弟の最期に関わる真実が眠っていた。
ギザ高原を巡る一日の旅。
スフィンクスの影、熱を持つ石、砂に混じる古い祈り。
失ったと思っていた名前たちが、夕陽のなかでゆっくりと起き上がる。
これは、忘れられない人を忘れないまま生きるための物語。