あらすじ
「武士の魂など、あの鉄の塊の前には何の役にも立たぬのだ」。阿片戦争で清が敗れた報せに、長崎の海を見つめる直正の背筋は凍った。
大名の格式を重んじる放蕩な父、既得権益にしがみつく老臣たち。四面楚歌の中、直正の武器は槍でも刀でもなく、異国の「数理と科学」であった。
鉄の反射炉を建設を目指すも耐火レンガがドロドロに溶け落ちる失敗の連続の中で、彼は何を見据えていたのか。家柄を排し、身分低き若き頭脳を抜擢して挑んだ壮大な挑戦。「妖怪」と畏怖された男の、泥塗れの葛藤と、無私の炎。果たして佐賀は歴史に間に合うのか。幕末の隅で鉄を溶かす、知られざる黒金の佐賀を描く。