あらすじ
江戸時代後期の旗本、近藤重蔵守重は、文武共に優れた一種の豪傑であり、公儀主宰の学問吟味に及第後、長崎奉行所付、蝦夷地御用取扱、御書物奉行、大坂御弓奉行を歴任した。だが、嫡男富蔵が起こした殺傷事件(鎗ヶ崎(やりがさき)事件)によって旗本近藤家は改易となり、重蔵は琵琶湖に面した近江国大溝(おおみぞ)藩分部(わけべ)家預かりとなって大溝藩陣屋内の座敷牢へ幽閉された。
重蔵は、座敷牢内で過去の自分の事績を回顧しつつ、坐禅や書見、本草学著述の生活を送った。藩主の分部左京亮光寧(さきょうのすけみつやす)をはじめ、牢番藩士であり、武芸に優れた坂部一馬や、同じく牢番藩士であり、陽明学徒である横田秋蔵は、重蔵に尊敬の念を抱く。
藩士一馬は、重蔵と秋蔵から教わった「知行合一(ちこうごういつ)」という言葉の意味の誤解から好意を寄せている女人へ恋文を渡すことになったが、結果的に自分の気持ちを一新することができ、妻帯し、勤めに励もうと決意する。
重蔵は幽閉後二年余で他界するが、藩主左京亮は、公儀から重蔵死去の難癖を回避すべく、策を講じる······。
本作品は、大溝陣屋内で過ごした近藤重蔵の晩年の姿と、大溝藩内における人々の姿を映し出した点景である。