あらすじ
年に一度、端午の節句に合わせて押し入れから出される五月人形。鎧兜の「私」は、母の手で飾られ、家の中心に座る。だが今年の母はどこか落ち着かず、息が浅い。高校三年の息子・直も、五月人形を一瞬見て目を逸らした。
食卓では父が「男なら腹を決めろ」と進路を迫り、母も「ちゃんと」を重ねてしまう。直は黙り、部屋へ戻る。夜更け、直は居間に来て五月人形に話しかけるが、言葉にならず引き返した。
翌日、風で飾りの部品が落ちる事故をきっかけに、直は母へ本音を告げる。「工学部ではなくデザインに行きたい。俺は、俺で決める」と。母は怖さを吐き出しながらも受け止め、やがて父も短く頷く。
節句が終わり片付けの日、直は自分の手で五月人形を箱へ戻し、静かに告げる。「ありがとう。俺、行ってくる」
鎧兜は独り言で祝福する。鎧は置いていけ。背骨はもう、お前のものだ。