あらすじ
永正十七年師走、越中遠征中の古志長尾房景のもとに、長尾為景から戦功を讃える感状と、討死した若者たちへの慰問の添え状が届く。だが為景は添え状にこう書いていた——若き者の死は「祝事に候」。
平家の敦盛も太平記の若武者も、軍記の作者は必ず涙とともに死を語った。為景は同じ命題から、涙だけを抜き取っていた。十年来の為景の言葉のすべてが、結論を着地させるための助走だったと、房景は今ようやく理解する。
雪の炉端で、房景は半年迷った末に決めた妹の縁組を思う。為景を信じられぬからこそ、人質として妹をやらねばならぬ——そしてやがて生まれるであろう、為景の一字を冠する甥のことを。
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上杉謙信の父・長尾為景と、伯父・長尾房景の話です。謙信はまだ生まれていません。