あらすじ
「独りで歩くから、見える景色があるんだ」
中学一年生、佐野悠希(さの・ゆうき)。
周囲に馴染むよりも、愛用のデジタル一眼とメモ帳を手に、地元・静岡県富士市の歴史を歩いて紐解く「独旅(ぼちたび)」を愛する少年。
明治の息吹が残る製紙工場、命がけで川を渡った先人たちの渡船跡、そして重機なき時代に築かれた巨大な堤防「雁堤」。
眼鏡をくいっと押し上げ、時速4キロの速さで街の記憶をトレースする彼の旅は、誰にも邪魔されないはずだった。
――あの、ちょっとお節介で、やけに距離感の近いクラスメイト・渡辺結衣(わたなべ・ゆい)が現れるまでは。
吉原商店街のアーケード、夕暮れの公園で分かち合う60円のコロッケ。
一人で完結していたモノクロの地図に、彼女の笑顔という鮮やかな色彩が混ざり始める。
これは、不器用な少年が自分の足で「明日」を踏みしめる、静かで熱い、街歩き青春グラフィティ。