あらすじ
むかしむかし、言葉がとても重く、大切にされていた時代がありました。ひとつの声が戦いを止め、ひとつの叫びが国をこわしてしまうこともあったのです。そんな時代、「音の巫女(みこ)」と呼ばれる少女がいました。彼女の声には不思議な力があり、聞いた人の怒りや悲しみを静かにしずめました。けれどその声は、争いを望む人々にとっては“都合の悪い音”でした。「戦いのじゃまだ」と恐れられ、巫女は声を封じられ、山奥の祠に閉じこめられてしまいます。巫女は最後の祈りをこめて、自分の声と想いをひとつの鈴に託しました。それが「音喰いの鈴」。音を出さず、まわりの音をすべて飲みこむ、静けさの祈りの結晶です。人々はその鈴をおそれ、「この鈴が鳴るとき、世界は沈黙に包まれる」と語り継ぎました。
けれど本当は――その鈴が“鳴る”のは、誰かの心が救われたときだけ。誰にも聞こえない、けれどたしかに胸の奥で響く“懐かしい音”が、静かに、静かに、世界を変えていくのです。
そして今、その鈴を受け継ぐ少女がいます。名を、音無 玲(おとなし れい)。音を喰らう鈴を胸にさげ、争いを止めるために旅をしています。誰の味方でもなく、誰の敵でもなく。ただ、“声が届く世界”を取り戻すために。これは、世界でいちばん静かな武器を手にした少女が、争いの音をやさしく飲みこみながら歩む、異世界の物語です。