あらすじ
「君の調律は完璧だが、音が泣いていない」。
東京で孤独な日々を送る天才調律師・レン(34)は、自身の音が枯渇していることに気づく。彼を衝き動かしたのは、16年前に姿を消したタイ人の初恋相手・ナラが遺した、一本のカセットテープだった。
そこには、彼女の拙いピアノと、熱帯の雨音が録音されていた。レンは「正しさ」以外の音を探すため、チェンマイの奥地へと旅立つ。
スコールが叩きつける村で再会した彼女は、既に母となり、別の幸せを生きていた。レンは朽ちかけた村のピアノに向かう。彼がそこで作ったのは、完璧な音律ではなく、彼女の生活と湿気に優しく溶け合う「雨の音」だった。
決して戻らない青春の時間と、大人になることの痛み。言葉にならない想いをピアノの旋律に乗せて描く、喪失と再生の物語。