あらすじ
万年ヒラの引越し作業員・三崎怜は、嫌な先輩・黒田と訪れた山奥の旧家で、桐箪笥の底板に光る文様に呑み込まれ、二つの月が浮かぶ異世界へ落ちる。
そこは数百年に一度の「世界の引越し」の最中だった。崩れゆく古い大地から新しい大地へ、数百万の難民が渡らねばならない。だが結界回廊は腐敗した帝国軍に押さえられ、共に転移してきた黒田は火薬の知識を手土産に准将の地位を得て、流民の「間引き」を始めていた。
怜の特技はただひとつ。認知症の祖母から教わった「養生」──物を傷つけずに運ぶこと。毛布を畳み、隅当てを当て、動線を引く、誰の目にも映らない地味な技術。それがやがて百八の小回廊となり、大陸そのものを救うことになる。