あらすじ
2030年、春。
高密度にデジタル化された教室、通知の嵐、逃げ場のない視線。
新学期を前に「自分の居場所」を見失った麻倉実結(あさくら みゆ)は、
あの日、時を飛び越えた。
降り立ったのは、雪解け水がアスファルトを濡らす、1998年の札幌・東札幌。
戸籍もなく、公衆電話の使い方も、小銭の重さも知らない実結を拾ったのは、
私立東札幌高校の化学教師、五味(村瀬)織江だった。
実家の写真館との確執に身をねじらせ、知識ばかりの恋愛論を語り、
気に入らないことがあればすぐに舌打ちをする、三十路手前の不器用な大人。
なぜか初対面で実結の正体を見抜いた五味織江は、
強引に実結を「親戚のワケあり聴講生」として学園へ送り込む。
そこで待っていたのは、後に母となる少女・佳奈たちが、
赤い電球の下、あの、忘れられない停止液の匂いに包まれて
「今」を焼き付けようとあがく、熱っぽい写真部の日常だった。
スマホもSNSもない。
けれど、一度シャッターを切れば二度と書き換えられない「銀塩の時代」で、
未来で詰んでいた少女は、ねじれた大人や同年代の仲間たちと共に、
失くしたはずの光を探し始める。
これは、不自由で、うるさくて、たまらなく愛おしい――
一回性の季節を駆け抜ける、私たちの「再生」の記録。