あらすじ
35歳、二級配管技能士の桜井 巧(さくらい たくみ)。17年間、汗と汚水と狭所作業に塗れて生きてきた、根っからの「現場の人間」だ。図面を読み、勾配を測り、見えない壁の中に世界を組み立てる――そんな彼の仕事を、口先だけの上司・黒田 優介(くろだ ゆうすけ)はいつも嘲笑い、手柄だけを掠め取っていた。
ある日、黒田の安全管理違反による落下事故で、巧は命を落とす。
目覚めた先は、剣と魔法の世界。辺境の村の孤児となった巧は、自分の目に「奇妙な管」が見えることに気づく。家の壁、地面の下、空の彼方、そして人体の中にまで張り巡らされた、淡く光る半透明のパイプ群。それは、この世界に魔力を流す**「魔導管網(まどうかんもう)」**――かつて〈原初の建設者〉と呼ばれた古代文明が敷設した、世界規模のインフラだった。
魔導管網は劣化し、各地で漏水(魔力漏れ)と詰まりを起こしていた。世界は静かに枯れつつある。だが、その「故障」が見えるのは、巧ただ一人。村の井戸を直し、領主の館を直し、いつしか王都に呼ばれた巧は、世界を蝕む真の異変を知ることになる。
そして敵国フェルム帝国に、見覚えのある男がいた。あの黒田が、最高位魔導技師として転生し、世界の魔力を独占しようとしていたのだ。
巧の武器は、魔法でも剣でもない。「段取り」「墨出し」「勾配」「インサート」――現場で叩き込まれた、地味で泥臭い、しかし揺るぎない技術だけ。
「世界? 救うも何も、ただの大規模改修工事だろ。」
工具袋を担いだ作業着の男が、世界の蛇口を握る。