あらすじ
王宮刺繍院のエルナには、日没の鐘から残光が消えるまでの間だけ、布に本心を縫い留められる力がある。受け取った者には、言葉ではなく確信だけが届く。——代価は、その想いにまつわる自分の記憶。
第一王子ユリウスの婚礼衣装を任されたエルナは、彼の無事を願って一針ずつ本心を縫い、彼を愛した時間を少しずつ失っていく。蜂蜜菓子の味も、白い花の朝も、名を呼ばれた夕刻も。
そして最後の一針。すべてを忘れた彼女の前で、殿下は十年の恩も、失われた日々も口にしない。ただ初対面の男として名乗り直し、二度目の初恋を最初からやり直すことを選ぶ。
忘れても、恋は選び直せる。切な×救済の短編です。