あらすじ
世界を救う――それは、チート能力さえあれば達成できる、この世界で最も簡単なミッションだ。しかし、その後の人生を生き抜くことは、最も困難な課題となる。
魔王城の地下深くに存在する『人事評価戦略部』。ここを統括するのは、極めて合理的でコンプライアンスを重視する魔王軍の娘、リリア・ベルグだ。彼女の仕事は、戦闘で消耗した魔族たちに休暇を与え、適切な部署へと配置転換すること。彼女の部署では、感情論も、ましてやチート能力も一切通用しない。求められるのは、「超現実的な労働市場における価値」だけである。
そんな人事部に、ついに人類の英雄が転がり込んできた。四ヶ月前に魔王を討伐し、世界を救ったはずの元勇者、ゼノン。彼は、目標喪失による燃え尽き症候群と、英雄という重すぎる称号による社会不適合に陥っていた。
ゼノンの希望はただ一つ、「誰にも見つからない静かな場所で、生きていることさえ忘れるような平和な生活」を送ること。しかし、彼の持つ「殲滅」スキルは、平和な社会では『使い道の狭い危険物』でしかなかった。
リリアは、絶望するゼノンに対し、英雄の鎧を脱ぎ捨て、『一人の労働者』として能力を再定義するよう迫る。彼女はゼノンの「瞬間的な状況判断能力」や「極限状態での集中力」といった普遍的な能力を掘り起こし、新たなキャリアパスを模索する。
物語は、勇者ゼノノンの転職支援を軸に展開。彼の元仲間である元賢者の経理ミスや、元僧侶の信仰心欠如による対人恐怖、さらには魔王軍の過労死寸前のエリート魔族など、多種多様なクライアントがリリアの元を訪れる。
リリアは、彼らの「チート能力」ではなく、その裏側に隠された人間の本質的な悩みと向き合っていく。そして、ゼノンもまた、リリアとの地味で真剣な交流を通じて、剣を持たない自分の存在価値と、失いかけていた『生きる意味』を静かに見出していく――。
これは、魔王城の片隅で繰り広げられる、超現実的なキャリア支援と、虚無感からの再生の物語である。