あらすじ
コンビニバイト歴五年、二十五歳の真島透(まじま・とおる)は、両親を事故で失った日から「マニュアル通りの完璧な店員」として生きてきた。本心を隠した笑顔、決して荒げない声、客が何を投げつけてきても貼り付けたままの「いらっしゃいませ」。それが彼の鎧であり、唯一の生存戦略だった。最も近しいはずの七つ下の妹・葵にすら、彼はもう"店員"としてしか向き合えない。
ある真夜中、刃物を持った強盗が店に押し入る。常連の悪質クレーマー「黒沢」がレジ前で凍りついていた。透は反射的に身を盾にし、刃を受けた――その意識が途切れる前、彼は黒沢と目が合った。
目を覚ましたとき、透はアストレア王国の片田舎、街道沿いの宿屋の納屋で寝かされていた。剣と魔法の世界。前世で五年間磨き続けた「コンビニ業務の身体記憶」だけを携えて、彼は転生していた――かに見えた。
そこに迫るのは、隣国ドラケン帝国の侵攻と、「古代封印」の連続崩壊。そして敵帝国の枢密顧問として三十年も先に転生していた、あの最悪のクレーマー「黒沢」――。
剣も魔法も初心者の透が頼れるのは、ただ一つ。来る日も来る日も叩き込まれた業務の身体記憶。中でも、誰一人見向きもしなかった、シフト交代時の「引き継ぎ」というだけの作業。それがやがて、世界の崩壊を食い止める鍵になっていく。
しかし真の戦いは、剣でも魔法でもなかった。
透が五年間、誰にも引き継がず、自分も受け取らなかった――