あらすじ
王宮の北棟には、古い温室がある。
そこで咲く王家の花、レーヴェンローゼ。
昼は白く、夜は赤く染まるその花は、王国の象徴として長く愛されてきた。
王太子アルノルトの婚約者である公爵令嬢エルゼヴィーラ・ローゼンヴェルは、誰より美しく、誰より完璧で、誰より王太子妃に相応しい令嬢と称えられていた。
けれど、花の品評会と呼ばれる夜会の席で、彼女は婚約破棄を告げられる。
完璧すぎて、心が見えない。
そう告げられた夜、温室の奥にある開かずの鉄扉の向こうから、音がした。
こつん。
黒い爪が、内側から扉を叩くような音。
導かれるように地下へ降りたエルゼヴィーラは、そこで王宮が長く隠してきたものを知る。
美しいと言ってはいけない。
誰かより美しいと言ってはいけない。
可哀想だと言ってもいけない。
もし夜、どこかで「こつん」と音がしたなら。
ただ、言わなければならない。
あなたです、と。