あらすじ
王都葬儀局の葬儀屋ノア・アーベルのもとへ、魔王を討った勇者カイゼルの棺が運ばれてくる。王国は「勇者は魔王との相討ちで胸を貫かれて死んだ」と発表していたが、ノアが遺体を清めると、胸の傷は死後に作られた偽装であり、本当の致命傷は背中の刺し傷だと判明する。勇者は魔王に殺されたのではない。味方に背後から刺されたのだ。
勇者の妹である聖女エリシアは、兄の死に疑念を抱き、ノアと共に真相を追い始める。二人は勇者の手に残されていた黒花、聖剣の血の記憶、父が残した死者記録簿、英雄管理局の帳簿を手がかりに、王国が英雄たちの死を都合よく書き換えてきた事実へたどり着く。剣聖、賢者、竜騎士――過去の英雄たちもまた、王国の物語のために本当の死因を隠されていた。
やがてノアたちは、魔王城が悪の城ではなく、敵味方を問わず死者の名を刻む墓所であることを知る。さらに、黒花は魔族の呪いではなく、世界に溜まる瘴気を吸い上げる浄化の花であり、魔王ゼルグレイスは世界を滅ぼす敵ではなく、黒花の根を通じて瘴気を引き受け続ける存在だったと判明する。勇者カイゼルはその真実を知り、魔王を殺すことをやめ、王都へ戻って戦争を止めようとしていた。
しかし、その真実は王国にとって都合が悪かった。宰相バルドは、勇者を「魔王を討った英雄」として死なせるため、近衛騎士レオンにカイゼル殺害を命じる。レオンは妹の治療を人質に取られ、友である勇者の背中を刺してしまう。さらに英雄管理局は勇者の遺体に偽りの胸の傷を作り、国葬で民衆を煽り、魔王領への再出兵を企てる。
ノアたちは黒花の村を守り、魔王の心臓を見届け、黒花を王都へ持ち帰る。国葬の場で勇者の背中の傷、聖剣の記憶、黒花の浄化作用、レオンの自白、ミラ王女が持ち出した帳簿を示し、王国の嘘を暴く。勇者カイゼルは魔王を殺した英雄ではなく、間違いを認め、世界の嘘を止めようとした一人の人間だった。
最後にノアたちは、王国の国葬ではなく、黒花の村で小さな葬儀を行う。エリシアは兄を英雄としてではなく、自分の兄として送り、ノアは死者記録簿に「ここに眠る。英雄としてではなく、カイゼル・レインフォードとして」と記す。事件後、ノアは王国から与えられた「死体鑑定士」の肩書きを断り、あくまで葬儀屋として、王国に名前を奪われた死者たちを正しく送る道を選ぶ。