あらすじ
情報通信工学を専攻する論理思考タイプの大学生、黒崎玲は、ある日怪しげなサイトで「1億円と引き換えに能力を付与する」というボタンを軽い気持ちで押してしまう。
直後に振り込まれた1億3万8000円という現実的な数字。それと引き換えに玲が手に入れたのは、全人類の頭上にステータスが表示されるという、あまりにも無機質な能力だった。
表示される項目は、好感度、経験人数、貯金額、殺害数、そして寿命。
当初、玲はこの力を「人間関係の最適化ツール」として利用し、1億円の資産を背景に効率的な学生生活を構築しようと試みる。相手の欲望や嘘が数値化されて見える視界は、論理的な彼にとって、世界をハッキングしているような万能感を与えた。
しかし、その万能感はすぐに摩耗へと変わる。
笑顔の裏に隠された醜い本音。親友の何気ない嘘。自分を「利用価値」としてしか見ていない周囲の打算。すべてがデータとして可視化される世界において、玲は「人間を信じる力」を急速に失っていく。
そんな中、玲は唯一の計算不能なバグに直面する。同じ大学の女子、白瀬雫。彼女のステータスだけは「寿命:???」と表示され、好感度の変動も不自然なほどに完璧だった。
金で買ったはずの自由と、能力で手に入れたはずの優位性。だが、玲の前に「殺害数:2」という数字を持つ男が現れたとき、物語は単なる日常のデバッグから、命を懸けたサスペンスへと変貌していく。
これは、1億円の防壁に守られながら、数字の深淵に呑み込まれていく青年の孤独な記録である。