あらすじ
「踏み込まないでくれて、ありがとう」
それは、救いでも恋でもない。
ただ、壊れないために選ばれた距離だった。
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精神医療施設で出会った二人の高校生、
佐伯陽一と如月梨花は、退院後も文字だけのやり取りを続けている。
内容は、他愛のない日常報告。
天気、散歩、庭の花、図書館の話。
けれどその裏には、互いの心を壊さないための“厳密な距離”が存在していた。
家庭内虐待の中で生き延びるため、
笑顔という『道化の仮面』を被り続けてきた梨花。
一方の陽一は、
哲学と歴史、そして自らの破壊衝動を理解しすぎたがゆえに、
『死は今の自分にとって必要だ』と冷静に言語化できてしまう少年だった。
「俺は優しくなど無い。残酷なだけだ」
彼は助言する。だが、決して救わない。
教師にはなれず、それでも“先生”にはなってしまう存在。
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二人の関係は、誰にも知られていない――はずだった。
感情を持たず、善悪を判断せず、
人間関係を“構造”として観測する存在《ピース》が、
二人の通信記録と心理変動を静かに監視している。
この関係は安全か。
依存か。
それとも、破綻への予兆か。
ピースは答えを出さない。
ただ、記録し続ける。
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救わない少年と、救われることを恐れる少女。
そして、救済を前提としない観測者。
影と光の間で揺れる心は、
点となり、線となり、円となり、やがて螺旋となって再び点へ還る。
これは、
誰かを救う物語ではない。
「救わずに、共に在ることは可能なのか」
その問いを、静かに、しかし確実に読者へ突きつける
心理観測型ヒューマンドラマ。
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